年: 2018年の記事一覧
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司馬さん一日一語☞『泥炭地』(でいたんち)
明治後、 何十年にもわたって (北海道の)開拓民を なやましたものに、 泥炭地がある。 太古以来、石狩川が氾濫して流域を変えたり、遊水して沼地をつくったりして、そのつどアシやスゲの草が埋まり、腐朽し、どろのように炭化し、 […]
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司馬さん一日一語☞『九十九髪』
久秀の献上した 「つくもがみ」 というのは 茶入れの名である 信長公記の十月二日の条に、「松永弾正は我朝無双のつくもがみ進上申され」とあり、 甫庵太閤記には「天下無双の吉光の脇差を捧げ奉る」とあり、総見記では両方とも献上 […]
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司馬さん一日一語☞『鎮守の森』
昔から鎮守の森 というのがありまして、 むろん今はたれも以下のことは信じていませんが、伝承として、神様は木を伝って降りてくると信じられていました。 だから鎮守は本来森だけだったわけです。 少なくとも十世紀ぐらいにわれわれ […]
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司馬さん一日一語☞『蝶』
私は、 蝶という言葉が、 上代日本人にとって 外国語であることが 気になっている。 蝶、音はテフ。 テフという古い中国語の音は、蝶がその羽をにわかに翻しつつひらひら飛ぶさまから来ている。 人間の暮らしの中にありふれて存在 […]
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司馬さん一日一語☞『朝夕人』
将軍が 「朝夕人」とよぶ。 小便をしたい、 という意味である。 江戸幕府は殿中の制度を立てるにあたって室町幕府を参考にしたが、公人(公儀の下人)という名称も存在も継承しなかった。 「朝夕人」(ちょうじゃくにん)という職名 […]
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司馬さん一日一語☞『魑魅魍魎』
魑とは山の神で、 顔はトラである。 魅とは沢の神で、 顔はイノシシである。 陸軍が二種類ある。 「壮士・志士あがりの近衛軍」 「徴兵制による国防軍である鎮台」 桐野(利秋)が前者を代表しているのに対し、山県(有朋)は後者 […]
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司馬さん一日一語☞『丹前』(たんぜん)
丹後守屋敷の前 ということで、 この風俗営業のことを 略して、丹前とか 丹前風呂とかよんだ。 神田佐柄木町や雉子町のつづきに、堀丹後守という小さな大名の屋敷があって、その付近に風呂屋が多くできた。 店ごとに湯女を多数おい […]
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司馬さん一日一語☞『種子島』
日本の近世史は、 この長篠の戦場における 信長の銃火によって 幕をあけたという べきだろう。 日本の鉄砲の歴史は、たれでも知っているとおり、天文十二年(1543)種子島に漂着したポルトガル船の船長が島の王様種子島時尭(と […]
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司馬さん一日一語☞『谷』(たに)
谷こそ 古日本人にとって めでたき土地だった。 丘(岡)などはネギか大根、せいぜい雑穀しか植えられない。 江戸期のことばでも、碁の岡目八目とか岡場所(正規でない遊里)という場合の岡は、傍とか第二義的な土地という意味だった […]
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司馬さん一日一語☞『ダテ』
男を立てるから 男だてといい、 それから独立して 「ダテ」という ことばが出来た。 元和九年七月、将軍秀忠は、嗣子家光に世をゆずった。 家光は父の秀忠とともに上洛して、将軍宣下を受けた。 諸大名皆これに供奉したが、伊達政 […]
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司馬さん一日一語☞『韃靼』(だったん)
民族名であり、 地域名でもあったが、 しかし いまはこんな名称は 現実には存在しない。 韃靼(だったん)の韃は、明の辞書である「字彙」によると、撻(たつ/むちうつ)からきている。 馬をむちうって駆けるというイメージからつ […]
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司馬さん一日一語☞『大納言』(だいなごん)
大納言というのは、 大宝律令でできた 官職で 大臣のつぎの職である。 大臣が参内しないときは、それに代理して諸政をみた。 比較はできないが、比喩としていえばいまの事務次官にあたるであろう。 千二百年前の日本の官人、知識層 […]
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司馬さん一日一語☞『大儀』(たいぎ)
「大儀」 秀頼という青年は、 家来にこれ以上 ながいことばを 言ったことがない。 なみはずれた大男で容貌も秀麗であり、内々のうわさで漢字(まな)の書物などもすらすら読むくせに、表お座所に出るとこれだけしか言えないのである […]
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司馬さん一日一語☞『隊』(たい)
隊という言葉は、 元来日本語には なかった。 武士の組織単位のことは戦国以来「組」とよばれ江戸期の幕藩体制にもこの単位用語がつかわれた。 幕末の長州藩が幕府と対峙したときに挙藩一致の動員をおこなわざるをえなくなり、 軽格 […]
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司馬さん一日一語☞『尊王攘夷』
あるいは 尊王賤覇とも いうのです。 朱子学の道はまた別な要素、尊王攘夷がやかましくいわれる。あるいは尊王賤覇ともいうのです。 尊王攘夷の夷はあくまでも異民族という意味で、これは中国で起こった宗学の家庭の事情によるもので […]
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司馬さん一日一語☞『世間虚仮』
七世紀の聖徳太子が 大好きなことばだった。 世間(せけん)というのは現象世界のことで、こんにちでいう、世界の意味です。 世界は虚仮(こけ)、仮のものである、というのは、七世紀の当時だからこそ—その程度の生産能 […]
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司馬さん一日一語☞『製紙』(せいし)
製紙法がいつどこから 伝わったものなのか 正確に論証しがたいが、 ふつう『日本書紀』の 推古天皇十八年春三月の くだりがよりどころに なっている。 高麗王の命によって渡日した僧曇徴が、その年、製紙、製墨、あるいは彩色の法 […]
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司馬さん一日一語☞『正義』
正義という 人迷惑な一種の 社会規範は、 幕末以前には日本に なかったといっていい。 当時(幕末)の日本人は、知識人でも日本史の知識をいまの中学生ほども知っていなかった。 通史といえば『日本外史』一冊きりなのである。『日 […]
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司馬さん一日一語☞『スマート』
私は海軍のことを 知らないが、 その精神教育は—- 海軍士官は スマートであれ。 という一点に尽きるらしい。 とくに速成教育で士官になるひとびとはこのひとことに感動し、生涯海軍びいきになってしまうという。 ス […]
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司馬さん一日一語☞『杉』(すぎ)
杉が建材として 流行したのは、 せいぜい室町時代ごろ からかと思える。 古い寺院建築や書院造りの建物をみても、ヒノキのようなずっしりした硬い材が主役で、杉のような軟らかくてかるがるした材は、せいぜい杉戸のようなものとして […]
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司馬さん一日一語☞『スキタイ』
紀元前六世紀から 前三世紀ごろにかけて、 黒海北岸の草原地帯を 騎馬でかけまわっていた イラン系の民族 スキタイのひとびとは二つの発明を人類に遺したことで知られる。 一つは馬の背にじかに乗るという、それまで人間が思いもつ […]
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司馬さん一日一語☞『数寄』(すうき)
「好・数寄・数奇」 という、室町文化を 特徴づけることばは、 愉悦であるとともに、 毒として理解されて いた。 昂ずれば城をほろぼし、商いに身が入らず、身上をつぶすという危険と表裏をなしているからこそ、 数寄をつらぬいた […]
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司馬さん一日一語☞『随分だわね』
このことばづかいは、 明治三十年代から、 山の手を中心に はやりはじめた ものかと おもわれる。 鴎外は、明治四十二年、『団子坂』という題の小品を書いた。 「……あなたが僕の傍に来て、いくら堅くしていたって、僕の目はあな […]
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司馬さん一日一語☞『推敲』(すいこう)
文章の辞句を あれこれ考えることを “推敲”するという。 唐代の詩人に、賈島(かとう)という人がいる。 賈島は、迷いの多い性格をもち、その生涯もその性格にふさわしくひそやかだった。 そのあたり、なんともいえず私はすきであ […]
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司馬さん一日一語☞『助勤』(じょきん)
助勤とは、 幕末の京における 新選組の組織上の 用語のひとつ なのである。 新選組は、組織としては、前例のないしくみになっていた。 組織の長は、いうまでもなく近藤勇であった。 近藤は、組織上、超然たる存在だった。 副長で […]
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司馬さん一日一語☞『縄文時代』
日本の新石器時代は、 学者たちが ヒトの暮らしへの 愛をこめて 縄文時代と命名した。 縄文時代とは、いうまでもなく、一万年間(米作が紀元前数百年前に伝来するまで)ほどつづいた先史時代の名称である。 その土器に縄目が刻まれ […]
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司馬さん一日一語☞『上人』(しょうにん)
葬式をするお坊さん というのは 非僧非俗の人、 お上人でした。 いまは、日本語が紊乱しまして、上人(しょうにん)と言うと、 偉い人のようにきこえますが、 上人というのは資格を持たない僧への敬称であって、たとえば 空海上人 […]
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司馬さん一日一語☞『浄土』(じょうど)
浄土は地理的に 西方にある。 そこに光明そのもの というべき 阿弥陀如来が おられて、 いっさいの人間を 救ってくださる というのである。 覚鑁(かくばん)は「密厳浄土ということをさかんにとなえた」人。 空海がひらいた真 […]
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司馬さん一日一語☞『春慶塗』
春慶というのは、 人の名らしい。 一説では十四、五世紀ごろ、堺に住んでいた漆工で、この塗りはこの人の工夫にかかるといわれている。 漆といっても、ぼってりと塗りかさねられた上手(じょうて)なものではない。 木目などの生地の […]
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司馬さん一日一語☞『遮光器土偶』
古代人は、 写実がつまらないと おもっていたらしく、 好きな部分を 思いきって誇張した。 亀ヶ岡は、標高約15ないし20メートルほどもある。 この丘が縄文晩期、あたかも都市のように栄えたのは、 まわりに大小の湖沼をめぐら […]
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司馬さん一日一語☞『しづ』
「しづ」という 古代の織物は、 平安時代ぐらいまで 存在したろう。 私どもの先祖はそういうものを着ていて、寒さをしのいだのである。 梶の木という木の繊維と麻の繊維で、スジや格子模様を織りだす織物をいう。 織り模様を出すと […]
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司馬さん一日一語☞『醜男』(しこお)
醜は、古語である。 にくにくしいまでに 強いこと、あるいは そういう人をさす。 『古事記』を真にうけるとすれば、その始祖は健速(たけはや/勇猛で敏捷)なスサノオ命(須佐之男命)である。 その首都は、出雲の須賀にあった。 […]
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司馬さん一日一語☞『樒』(しきみ)
シキミは、 常緑の形のいい 葉をもつ 樹である。 葉は濃緑で色もよく、肉質もたっぷりしている。 葉を裂くと、いいにおいもする。 秋には、黄色い実をつけるのだが、有毒だそうである。 材はせいぜい数珠玉につかわれるほかは細工 […]
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司馬さん一日一語☞『地女』(じおんな)
遊女に対する 女性一般をさす。 『ひとりね』のなかで、かれ(柳沢淇園)は遊女のことを、 「女郎さま」と、ゆかしげによぶのが、おかしい。 一方、良家の子女をふくめてふつうの女性のことを“地女”(じおんな)とよぶのである。 […]
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司馬さん一日一語☞『塩』
人類は 「交易」というものを、 塩の売買によって はじめた。 製塩地というのは、東西の古代史において、存在そのものが力をもっていた。 たとえば中国史を見る場合、乱がおこると、英雄豪傑はいちはやく岩塩の出る土地をおさえて支 […]
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司馬さん一日一語☞『士』(し)
士という字は、元来、 単におとこというだけの 意味であったらしい。 藤堂明保編「漢字語源辞典」によると、原義は「男の性器の立つ形を示す象形文字。 転じて<おとこ>の意味」ーーーまことに即物的である。 「論語」の時代になる […]
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司馬さん一日一語☞『サビエ』
匈奴の服装で 象徴的なのは、 サビエです。 サビエとはバックルのことです。 当時(紀元前の戦国時代)趙の武霊王がちょうど匈奴に接触する場所にいて、匈奴から圧迫を受けていた。 とてもあの連中にはかなわないから、われわれ自身 […]
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司馬さん一日一語☞『させて頂きます』
日本語には、 させて頂きます、 という ふしぎな語法がある。 この語法は、浄土真宗の教義上から出たもので、他宗には、思想としても、言いまわしとしても無い。 真宗においては、すべて阿弥陀如来ー他力ーによって生かしていただい […]
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司馬さん一日一語☞『婚礼』
伝統的な 日本の婚礼では、 神が存在しない。 両人が交わす 「盃」というものが 唯一絶対の 固めのしるしであり、 他はすべて 枝葉のことである。 日本の諸礼式は、公家はべつとして、室町期の武家礼式からはじまっている。 成 […]
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司馬さん一日一語☞『金平糖』
この南蛮菓子は 日本にキリスト教を もたらした 聖フランシスコ ・ザヴィエルの 置きみやげだという。 芥子粒(けしつぶ)に糖蜜(とうみつ)をしみこませ、 いったんはかわかし、次いで熱をくわえると、 芥子粒に内蔵された糖分 […]
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司馬さん一日一語☞『昆布』
日本人が 食用にしてきた あらゆる「め」のなかで 昆布が最も食生活に かかわりがふかい。 日本人は、古代から、海藻を食ってきた。 食用海藻のことを「め」といった (わかめ、あらめ、みるめ、などの言葉をおもいだせばいい)。 […]
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司馬さん一日一語☞『コロボックル』
国樔ノ人は、 一部の学者が 名付けている コロボックル (蕗ノ下ノ人) である。 国樔(くず)には、古代、国樔ノ人が棲んでいた。 国樔ノ人は、一部の学者が名付けているコロボックル(蕗ノ下ノ人)である。 かれらは、大和盆地 […]
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司馬さん一日一語☞『ご府内』(ごふない)
江戸市域のことを、 「ご府内」といった。 そもそも江戸とは、どこからどこまでをさすのか。 江戸の境界というのは、ながらく明瞭でなかったらしい。 江戸市域のことを、「ご府内」(ごふない)といった。 主として町奉行所でつかわ […]
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司馬さん一日一語☞『呉服』
和服が独自の発展を とげてからも、 これをしゃれて呉服 とよんだりした。 日本人の美意識と伝統技術が作りあげた粋というのは、なんといっても女性の和服であろう。 和服は、安土桃山という日本史に類のない芸術時代に大完成をし、 […]
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司馬さん一日一語☞『この世』
日本人は、 「この世」 ということばが 大好きなのである。 この世はままならぬ、とか、この世はつらい、とかいう。 このばあいの「この世」とは、「あの世」の対語で、浮世、というほどの意味だ。 むろん、中世末期以降の浄土教の […]
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司馬さん一日一語☞『居士』(こじ)
居士(こじ)とは 学徳のある在家の者が、 在家のまま仏道を修して 相当な域に達した場合、 敬してよぶ場合に つかわれる。 秀吉は信長の政権を武力で継承した。 相続するにあたって宗易(利休)という茶頭(さどう)をも“相続” […]
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司馬さん一日一語☞『御家中』(ごかちゅう)
現在でも大会社などでは 御家中といった感じの 文化が生きている。 石段の上から十数人の人達が降りてきた。 みな無口だが息が合っており、ごく自然にかたまりつつ、足どりをあわせておりてくる。おなじ会社の人達にちがいない。 ( […]
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司馬さん一日一語☞『興福寺』
日本文化史で、 もし、 「興福寺」という 存在を除外すると したら、様相が 変わってしまうに ちがいない。 それほど、この寺の存在はわれわれにとって重要である。 が、現存する寺としての興福寺には、往時の威容はない。ただ、 […]
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司馬さん一日一語☞『好色という文化』
江戸文化から、 その要素を除くと、 成りたちにくい。 ただこの好色のふるまいには、 歌論でいうところの“長高し”(たけたかし)という格調がなければならなかったようである。 さらには、よき好色の場は、江戸の吉原、京の島原、 […]
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司馬さん一日一語☞『皇紀』(こうき)
皇紀などという 珍妙なものを 公式に制定したのは、 民族主義が昂揚、 もしくは 昂揚せざるをえなかった 明治初年のこと で、太政官は『日本書紀』の紀年法を採用し、 西暦から六六〇年古くして神武天皇の即位の年とした。 『日 […]
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司馬さん一日一語☞『子』(こ)
女性の名で、 子とつくのは、 はじめは宮廷や公卿の 風であった。 平家物語に出てくる建礼門院は、平徳子。 文字にかくときには徳子とかくが、平素は子をはずしてよばれていたようにおもわれる。 子は、かるい尊称もしくはそれに似 […]
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司馬さん一日一語☞『言路洞開』
世論を政治に反映する という意味で、たとえ 過激者の意見でも 政治当路の者は よく耳を傾ける ということである。 文久元年、二年というのは桜田(井伊直弼の暗殺)のショックもあり、幕府の威信が地におちたどんぞこの時期で、 […]
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司馬さん一日一語☞『遣唐使船』
遣唐使船の構造は、 同時期の中国、 アラビア、あるいは 新羅の造船技術より はるかに劣っていた。 船底がタライのように扁平で、 むろん竜骨などは用いられていない。 全体が柳の葉形でなく樟の葉形で つまりまるまちっくて、骨 […]
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司馬さん一日一語☞『謙虚』
謙虚というのはいい。 内に自己を知り、 自己の中のなにがしか のよさに 拠りどころをもちつつ、 他者のよさや立場を 大きく認めるという 精神の一表現である。 自国の歴史をみるとき、狡猾という要素を見るほどいやなものはない […]
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司馬さん一日一語☞『玄関』
玄関は、 鎌倉・室町のころ、 禅寺の僧堂の入口の ことをそうよんだ。 やがて、公家や武家の屋敷に、この名称がひろがった。 鎌倉・室町の禅には、老荘の哲学が多くふくまれている。 “玄”は、老子の好む語だった。 くろぐろとし […]
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司馬さん一日一語☞『下克上』
「下克上」 というのは 足利時代初期から 戦国にかけての 風潮であり 流行語であった が、この言葉を編み出し、頻用したのは、 公家貴族と公家化した有力寺院の僧侶で「下、上に剋(か)つ」という下のほうを悪罵してつかったこと […]
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司馬さん一日一語☞『系図』(けいず)
先祖から代々の系統を 書きしるした表。 系譜。家譜。 京の着だおれ、江戸の履きだおれ、大坂の食いだおれ、という。それが東海地方にゆくと、それに語呂をあわせて、美濃の系図だおれと、最後につけくわえる。 系図というのはこんに […]
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司馬さん一日一語☞『笥』(け)
家にあれば笥に 盛る飯を 草枕旅にしあれば 椎の葉に盛る 『万葉集』の有馬皇子の歌は、よく知られている。 家にあれば笥に盛る飯(いひ)を 草枕旅にしあれば椎の葉に盛る という笥(け)は、単に食器という意で、歌のなかの「笥 […]
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司馬さん一日一語☞『黒鍬』(くろくわ)
戦国期には、 諸大名は戦闘員のほかに こういう(黒鍬) 労働力をもっている。 合戦がすむと飛び出して行って死体を片づけたり遺棄兵器を始末するなど、戦場掃除をするのである 平時には城普請などの非技能的労働にも従事する。 戦 […]
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司馬さん一日一語☞『胡桃』(くるみ)
日本には胡桃は もともと無かった。 胡桃や葡萄には、ハイカラなイメージがある。 信州に高燥なヨーロッパの台上の田園を感じたりすることの要素のひとつに、胡桃もかぞえられるだろう。 民族には、潜在的な記憶の伝承というのがある […]
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司馬さん一日一語☞『口』(くち)
「口」 という日本語は 人体器官をさす 基本語だが、 それから派生して 大変便利よく いろんな場合に つかわれる。 念のために『広辞苑』をひいてみると、十八個も語義が出ていた。 しかしその十八個のなかに中世以来ふんだんに […]
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司馬さん一日一語☞『くだらない』
江戸生産のものは くだらない(上方製でない)もの ということから、 低評価の意味に転じ、 いまでも「つまらぬ」 という言葉と同義語に つかわれている。 江戸期を通じて、江戸およびその背後農村の商品生産力はきわめて ひくく […]
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司馬さん一日一語☞『樟』(くす)
クスというのは “奇し”からきた ことばであろう。 この常緑樹は、何百年の苔にまみれた老樹であっても、季節になればさかんに若葉を吹きだす。 それも、あふれるようにである。その若葉がまことに奇しい。 また、つやつやとなめし […]
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司馬さん一日一語☞『径山寺味噌』
覚心は、味噌が すきであった。とくに 径山寺(きんざんじ) で癡絶(ちぜつ)に 参学していたときに 食べた味噌の味が わすれられなかった。 紀州の由良は入江である。 また由良の北にも入江があって、湯浅という。 覚心は湯浅 […]
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司馬さん一日一語☞『きれい』
“きれい”という ことばは、清潔と美が 一つことばなのである 日本人はよほど清潔ずきらしく、 “きれい”ということばは、たとえば、よく洗った皿が きれいである、あるいは、このビンきれいですか、 という意味と同時に、 &# […]
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司馬さん一日一語☞『居留地』
居留地(租界)は、 強力な外国が、 統治力の脆弱な国との あいだでむすんだ条約 によって成立した。 神戸は西暦一八六八年一月一日に開港し、都市化した。 最初は、港の港長までも御雇外国人の英国人だった。 さらに海岸の砂地に […]
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司馬さん一日一語☞『軽忽』(きょうこつ)
室町時代には、 「軽忽」という言葉を かるはずみということ ですが、日常的に、 人によったら日に 二、三回ほど使ってた ような多用言葉だった ようですね。 その言葉が「閑吟集」には、 誰そよお軽忽 主あるを をしむるは […]
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司馬さん一日一語☞『器用』(きよう)
この時代(室町後期) 人を評する上で 「器用」という ことばがしきりに つかわれていた 器用は、後世、その意味が衰弱したが、この時代での器用は、華や いで実がともない、さらには清潔だという語感であり、人に対して この上も […]
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司馬さん一日一語☞『義務』(ぎむ)
義務ということばは 新語でありながら、 明治のひとびとに 愛用され、 頻用されたことは たしかです。 坪内逍遥の『当世書生気質』にも出てきますし、 夏目漱石の『吾輩は猫である』にも出てきます。 主として書生や知識人のあい […]
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司馬さん一日一語☞『玉』(ぎょく)
玉というのは、 半透明の美麗な石のこと で、宝石ほどの透明感はない。 ついでながら、ダイヤモンドをはじめとする宝石を珍重することは インド文明が先駆をなし、ヨーロッパに影響をあたえた。 これに対し、 玉を珍重することは中 […]
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司馬さん一日一語☞『北前船』
大坂湾を中心に考えれば ここから下関へゆき、 ぐるっと北へまわって 日本海岸の港々に 寄りつつ奥州へゆき、 蝦夷地へいたる。 この航路や船のことを、 「北前船」といった。 江戸時代、大坂湾から蝦夷地(北海道)へゆくのに太 […]
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司馬さん一日一語☞『木地屋』(きじや)
木地屋は、 漂泊のひとびとだった。 木地屋とはいうまでもなく、ロクロをもってお盆やお椀などの挽物 を粗挽きする上代以来の山林の職業人のことである (日本の誇るべき漆工芸品の基礎—形づくり—はかれらがうけもったのである)。 […]
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司馬さん一日一語☞『義』(ぎ)
義は戦国期(中国)に できあがった倫理では ないかと思われる。 義とは、骨肉の情や、人間としての自然の情(たとえば命が惜しい など)を越えて倫理的にそうあらねばならぬことをさす。 義は戦国期(中国)にできあがった倫理では […]
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司馬さん一日一語☞『がんまつ』
奈良県方言に 「がんまつ」という ことばがある。 人がなんといおうとも、 あるいは人の利害や感情にはいっさいおかまいなしに、めざす物に 猿臀(えんび)をのばし、 摑みどりにつかんで放さぬという性格をいう。 1931年、関 […]
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司馬さん一日一語☞『勧進』(かんじん)
勧進は本来、 社寺の建立・修繕など のために大衆から金品を あつめる行為をさし、 この行為の伝統がなければ、 たとえば奈良の大仏殿も大仏もこんにち存在しないのです。 同時に、勧進の意味が変化し、 大衆の前で芸能を演ずると […]
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司馬さん一日一語☞『灌頂』(かんじょう)
灌頂というのは ことごとく密教を 体得した者に 授けられる儀式である。 お遍路はお大師さんとともに歩く。「同行二人」(どうぎょうににん)と墨書した笠をかぶっているのは、いうまでもなくお大師さんとともにという意味である。 […]
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司馬さん一日一語☞『官』(かん)
日本の統治機構は、 政府というべきなのか、 それとも「官」といった ほうが語感として本質に 近いものなのか、 敗戦後、戦後社会がやってきたとき、ひどく明るい世界に出たよう な気がし、敗戦を、結果として革命と同質のものとし […]
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司馬さん一日一語☞『韓非子』(かんびひ)
徳という、 儒教にあっては 輪郭不鮮明なほどに 大きなものを 「韓非子」にあっては、 単に損得の得にされてしまう。 「いい君主にとって、臣下を制御する上で、二本の柄だけをもっている」(「二柄篇」)と、 まことに露骨である […]