司馬さん一日一語☞『蕪』(かぶ)


蕪は、正しくは
「カブラ」で、
文字は蕪菁と書く。


ところで、漢語に「諸葛菜」ということばがある。

蕪の一種で、種子をまくとすぐかたちになるらしく、なまでかじる
ことができる。
というようなことが『嘉話録』という本にある。
諸葛亮(孔明)は、戦いのひまなときには兵士に命じて蔓菁   
(まんせい/かぶ)の種をまかせわずかに芽が出たところで生で啖(くら)わしめた。
もしこれが事実なら孔明という人はいよいよえらいひとというほか
ない。
戦陣ではともすればヴィタミンCが不足して体に不調をきたしやすい。孔明は、蕪のわかい状態のものをナマ野菜としてとらせることで、兵士の壊血病をふせいだことになる。


日本人はシルク・ロードがすきだが、蕪もまたそこからきた。

その点、正倉院御物などとおなじである。野菜といって、バカにすべきではない。物の本では、かぶはヨーロッパでは紀元前から栽培されていたというが、原産地は地中海沿岸だという。
かぶは、日本には七世紀かそれ以前に入ったのではあるまいか。
『日本書紀』の持統天皇七年三月のくだりに
「詔して、天下をして、桑・紵(からむし)・梨・栗・蕪菁等の
草木を」うえさせた、とある。

☞出典:『街道をゆく』29
秋田県散歩、飛騨紀行(朝日文庫)

 

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