司馬さん一日一語☞『紫野』(むらさきの)


紫野とは、
染料の紫をとる
紫草がはえている
野をいう。

袖を振るというのは恋のしぐさだったそうで、『万葉集』にも、集中第一の才女額田王の歌が出ている。

あかねさす紫野行き標野行き
野守は見ずや君が袖振る
(巻第一、二〇)

恋歌ながら、景観が大きく、吹きわたる野風まで感じられる。
紫野とは、染料の紫をとる紫草がはえている野をいう。
標野のしめはしめ縄のしめと同義で、しめのとは“占められている野”を言い、古代の皇室や貴族が猟をする禁野をさす。
紫野とは接続していたらしい。紫野も禁野なのである。
ここで貴族たちが野あそびをし、紫草をみつけては根を掘る。
根は染料をとるだけでなく、干して軟膏をつくり、やけどや湿疹の治療につかうのである。
このため、紫草をさがす野遊びのことを、薬猟(くすりがり)といった。
標野が男どもの遊猟の場であったのに対し、薬猟はおそらく女性たちのあそびだったろう。

☞出典:『街道をゆく』34
大徳寺散歩(朝日文庫)

 

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