司馬さん一日一語☞『コロボックル』


国樔ノ人は、
一部の学者が
名付けている
コロボックル
(蕗ノ下ノ人)
である。

国樔(くず)には、古代、国樔ノ人が棲んでいた。
国樔ノ人は、一部の学者が名付けているコロボックル(蕗ノ下ノ人)である。
かれらは、大和盆地に壮麗な帝都が営まれるころになっても、吉野川の断崖に穴を掘って、そこを住居としていた。
体が小さいわりに頭が大きく、自然を愛し、自然に溶けあうことを民族の哲学にしていた。
平地に住いの建物をもつ出雲族の生活方式にならわなかったのは、かれらが、よほど頑固な保守主義者であったことを証拠だてている。
吉野川流域には、いまも幾箇所に、国樔の穴が残っている。

かれらは、穴を堀り、入り口にヒサシを蕗の葉でふく習慣をもっていた。
コロポックルとは、そういうところから出た古代アイヌ語なのだろう。

古代大和は、出雲民族と国樔族の共栄する楽天地であったが、
そこへ日向、薩摩、土佐、熊野をめぐり洗う黒潮に乗って、戦いに長けた種族がやってきた。

かれらは、天つ神と称した。
天つ神と国つ神の、日本の神話時代の動乱が、そのときからはじまるのだが—–

出典:『歴史と小説』(河出書房新社)

 

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