司馬さん一日一語☞『愛』


明治以前、
愛はあまり
徳目としては
言われなかった

愛という語は、在来の東洋思想では使用頻度がきわめてすくなく、
明治後キリスト教が入ってきてから訳語としての熟語(たとえば友愛、博愛)がさかんにつくられ、
徳目としても重要な位置を占めるようになった。
が、明治以前は、仏教思想からいってもむしろ慈悲が正面に出て、

愛はあまり徳目としては言われなかった。
むしろ仏教では、愛欲、愛着、愛執といったように悪いことば(煩悩や我執をあらわすことば)として使用された例が圧倒的に多い。

儒教でも、愛は徳目をあらわすことばとしては用いられることがすくなく、むしろ仁が愛の内容をも代表している。
そういうことから考えると、
戦国末期に直江兼続が、

戦いをするための兜に「愛」という金文字を前立に大きくかかげた
というのは何か異様な感じがするほどにおもしろい。
伝承では「愛民」の意味をこめた「愛」だという。

☞出典:︎『街道をゆく』10
羽州街道、佐渡のみち(朝日文庫)

 

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