司馬さん一日一語☞『卜占』(ぼくせん)


上代日本語では
卜占をウラという。

ウラを活用させてウラナフ、ウラトフ、ウラフ、ウラハフといったりするが、ともかくも卜占(ぼくせん)は古代世界の科学であった。
専門の神道者(かむなぎ)がこの術を用いたが、かれらの奇妙さは壱岐・対馬に集中的にいたということである。
上代日本が国家の体裁をととのえはじめた大宝律令制定(701)のとき、神祇官の職掌名として
「ト部」という者が二十名置かれることになった。

壱岐から五人対馬から十人そして伊豆から五人という割で、ト術のすぐれた者が都によばれ、吏員になった。
かれらは鹿トよりモダンな亀トをやった。
これらのト部が次第に栄え、中程度の官人か諸社の祠官になっていく。

☞出典:『街道をゆく』13
壱岐・対馬の道(朝日文庫)

古代日本の卜占(ぼくせん)は、東アジアで孤立したものではなく、古代中国で亀ノ甲を焼いて吉凶をうらなったように、古代日本では牡鹿の肩骨(肩甲骨)を焼いてそれにあらわれるヒビによって吉凶を見た。
それを「太占」(ふとまに)という。
のちに奈良・平安期になって中国風に亀ノ甲を焼く法が併用され、いつのほどかこの鹿のほうは絶えてしまうのだがいずれにせよ、それを焼くための木はきまっていた。
「ハハカ」という木を燃やして焼く。ハハカ、波波迦。ウワミズザクラのことだという。 

☞出典:︎『街道をゆく』1
長州路ほか(朝日文庫)

 

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