司馬さん一日一語☞『杉』(すぎ)


杉が建材として
流行したのは、
せいぜい室町時代ごろ
からかと思える。

古い寺院建築や書院造りの建物をみても、ヒノキのようなずっしりした硬い材が主役で、杉のような軟らかくてかるがるした材は、せいぜい杉戸のようなものとして使われていた程度のようである。
室町期に、茶室を中心に発達した数寄屋造りがさかんにおこなわれてから、杉が主役になったのであろう。
いまの日本の住宅建築は、数寄屋造りの系譜をひいている。
杉の軽みともくの美しさがよろこばれて、天井板や欄間に使われたり、たるきや床柱に使われてきた。
強度よりも装飾的に杉がよろこばれたという室町期の美学が、四百年以上にわたって日本建築を支配しつづけているのである。

材木の容積単位を「石」であらわすが(材木一石は十立法尺)杉の木というのはその根と根がかかえている土壌に水をたっぷり貯える性質をもっている。
杉の木は一石あたり一石(一升の百倍)の水を貯えているそうで、その意味では杉山というのは貯水のための一大スポンジのようなものであり、これによって日照りがいくらつづいても谷水は絶えることがなく、それが河川を通じて下界に豊富な水を提供している。

☞出典:『街道をゆく』8
熊野・古座街道、種子島みちほか(朝日文庫)

 

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