司馬さん一日一語☞『備長炭』


備長炭は
熊野に多い
ウバメガシという
樫の一種を乾留して
つくる。

白炭ともいい、打ちあわせると金属音に近い音が出る。
ふつうの木炭(黒炭とよばれる)のように一時的に高い火力が出て持続しないのとはちがい、温度は低いながら持続する。
このため蒲焼だけでなく、江戸の高級料亭や大名屋敷ではこれをつかった。
備長炭(びんちょうたん)は、主として熊野の新宮湊から紀州廻船の手で江戸へ送られた。

☞出典:『この国のかたち 六』(文藝春秋)

ビンチョウ炭は良質の無煙炭の割れ肌のような金属的な光沢をもち、たたきあわせると音までが金属的で、いかにも火力が出そうである。
そのくせ、松炭などよりはるかに低温で、600度しか出ない。
低温であるということも温度にむらがないという特性のために、日本料理には欠かせないものとされてきた。
材料の姥芽がしは、近畿地方に多い木で、和歌山県では県の木になっている。
まるみのある小型の葉が厚手で、葉の色がわかば色なのがいい。
材は、舟の櫓臍や荷車の車輪につかわれてきたほどだからいかに堅くてねばりがあるかわかるし、それが乾溜されて木炭になった場合、金属音を発するのも当然であろう。
実であるドングリは他のドングリにくらべてしぶ味がすくなく、古代食の出土状況からみると、縄文時代ではむしろ主食ともいうべき存在であった。
ビンチョウ炭というこの奇妙な名称は、物の本によると、元禄年間に紀州田辺の商人備中屋長左衛門(略称・備長)が江戸へ売り出したたからこの名ができたということになっているが、べつに備長が創案したものではなく、土地に長く伝わっていた智恵を備長が商品化しただけのことだろう。

☞出典:『街道をゆく』8
熊野・古座街道(朝日文庫)

 

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