司馬さん一日一語☞『ご府内』(ごふない)


江戸市域のことを、
「ご府内」といった。

そもそも江戸とは、どこからどこまでをさすのか。
江戸の境界というのは、ながらく明瞭でなかったらしい。
江戸市域のことを、「ご府内」(ごふない)といった。
主として町奉行所でつかわれていた用語で、町方として管轄する地理的範囲をご府内といったのである。

江戸の市域はどこまでか、ということで、江戸後期、幕府の手で、地図に“朱引”がおこなわれた。
以後、ご府内のことを「朱引内」(しゅびきうち)とよんだ。

朱引については明治の夏目漱石の東京地理感覚にまで生きていた。
漱石の生地は新宿区喜久井町一番地で、そのあたりに、通称“早稲田田圃”とよばれる水田がひろがっていて、半ば田園だった。

漱石自身、「江戸絵図で見ても、朱引内か朱引外か分らない辺鄙な—-」(『硝子戸の中』)と書いていて、明治後期でもなお朱引は現役のことばだった。


☞出典:
『街道をゆく』37
 本郷界隈(朝日文庫)

 

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