司馬さん一日一語☞『推敲』(すいこう)


文章の辞句を
あれこれ考えることを
“推敲”するという。

唐代の詩人に、賈島(かとう)という人がいる。
賈島は、迷いの多い性格をもち、その生涯もその性格にふさわしくひそやかだった。
そのあたり、なんともいえず私はすきである。

文章の辞句をあれこれ考えることを“推敲”するという。
これは、いまも生きて、日本語の中にある。

これは、賈島の逸話から出ているのである。
ある日賈島が、ロバに乗って道をゆくうちに“僧ハ推ス月下ノ門”という句を得て大よろこびしたが、
さて“推ス”がいいのか“敲ク”(たたく)がいいのか迷った。

夢中で“推敲”しているうちに、大官の行列にぶつかってしまった。
その大官が、唐代きっての詩文家韓愈だったのである。
韓愈が賈島から事情をきいて大いに笑い、“それは敲クがよかろう”といった。

 

☞出典:『街道をゆく』34
大徳寺散歩、中津・宇佐のみち(朝日文庫)

 

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