月: 2018年9月の記事一覧
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司馬さん一日一語☞『文化』(ぶんか)
すべて “くるまれて楽しい” ということが、 文化なのです。 文明は「たれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」をさすのに対し、 文化はむしろ不合理なものであり、特定の集団(たとえば民族)においてのみ通 […]
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司馬さん一日一語☞『浮浪人』(ふろうにん)
国家からの 逃亡者であり、 それらを、 当時の公用語で、 「浮浪人」と よんだ。 七世紀の律令制のころの公民は、どう潤色されようとも、農奴という本質意外のなにものでもない。 かれらは—といっても私どもの先祖だ […]
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司馬さん一日一語☞『触』(ふれ)
「触」という 言葉そのものは、 古代からある。 遍く告げる、触れまわる、布告する、ということで上から下へ命令をくだす、という場合につかう。 中世にも戦国期にも、陣触(じんぶれ)<動員令>ということばがあった。 たとえば武 […]
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司馬さん一日一語☞『風流』(ふりゅう)
風流というのは、 本来“教養があって 雅びている”という 意味で、 中国の六朝時代に、 読書人の暮らしの スタイルとして 流行した。 六朝の知識人たちは政治論議を野暮とし、詩や琴棋(きんき)書画の中で遊ぶことを人生の最高 […]
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司馬さん一日一語☞『葡萄』(ぶどう)
ぶどうは ペルシャ(イラン) が原産地とある。 甲州ぶどうの原型をつくりあげるはなしをきいたことがある。 なんでも寿永年間というから平家が壇ノ浦でほろぶころ、いまの甲州ぶどうの雨宮さんの先祖の勘解由という土豪が、あるとき […]
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司馬さん一日一語☞『普請』(ふしん)
日本は、 普請の国である。 普請は、 土木のことをいう。 ことばとしては十三世紀ごろに浙江省あたりから入った宋の音で、当初は建築ということもふくめてつかっていた。 戦国時代になると、建築をきりはなして、これを「作事」とよ […]
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司馬さん一日一語☞『備長炭』
備長炭は 熊野に多い ウバメガシという 樫の一種を乾留して つくる。 白炭ともいい、打ちあわせると金属音に近い音が出る。 ふつうの木炭(黒炭とよばれる)のように一時的に高い火力が出て持続しないのとはちがい、温度は低いなが […]
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司馬さん一日一語☞『標準語』
標準語というのは いつごろできたので あろう。 「左様でござる」と、歌舞伎などで武士がいう。 江戸落語で武士を演出する場合も、四角ばって、たとえば「岸柳島」で武芸自慢の侍が、「尊公も両刀をたばさんでおられるなら、むざと手 […]
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司馬さん一日一語☞『飛騨工』
飛騨工(あるいは 斐陀匠/ひだのたくみ) ということばは、 八世紀の文献に すでにある。 飛騨人はどういうわけか建築、指物の技術をもって上代から知られていた。 奈良朝の「令」(りょう)によると、飛騨の国は諸国とことかわり […]
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司馬さん一日一語☞『聖』(ひじり)
日本の中世の 聖たちは、 こんにちの 日本の大衆社会の 諸機能をすでに 備えていた。 言葉というのは、本来なりさがりたるものらしい。 とくになまな現実感覚を超えてしまった尊称というのは、ひどく下落することがある。 たとえ […]
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司馬さん一日一語☞『蟇目を負わせる』
「いざ、蟇目負わせて くれん!」 鏑矢の鏃をすげないのを蟇目(ひきめ)といい、鳥獣などを生け捕りにしたり、物の怪を退散させる時に使い、これで射ることを「蟇目を負わせる」(ひきめをおわせる)というのだ。 南朝の興国三年、北 […]
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司馬さん一日一語☞『菱垣船』(ひがきせん)
盛りあげた荷が海に こぼれ落ちないように 両舷に垣を たてるのである。 だから、菱垣船とか 菱垣廻船とかいう。 からだに不釣り合いなほどにばかでかい帆をあげ、木ノ葉を縦に折ったようなV字形断面の船体には甲板(床)というも […]
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司馬さん一日一語☞『万里の長城』
紀元前、 異民族の侵入をふせぐ ためにつくられた (万里の)長城は、歴世、修理と増築をかさねて、胡をふせぐための機能をよく果たした。 塞外の騎馬民族にとって、この長い壁があるために馬を越えさせることができなかったのである […]
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司馬さん一日一語☞『藩邸』(はんてい)
「藩邸」 というよび方は 幕末以後のことばで、 大名の上屋敷・ 中屋敷・下屋敷を 総称することばである。 上屋敷は、将軍からの拝領地に建てられているから“拝領屋敷”などともよばれ、そこで大名が家庭を営んだ。 中屋敷・下屋 […]
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司馬さん一日一語☞『藩』(はん)
藩ということばは、 徳川時代の正式な 法制用語ではない。 幕府初期にはこの言葉さえ存在せず、中期ごろになってつかわれはじめ、幕末になって大いに奔走家のあいだで使用された。 新鮮なことばだったにちがいない。 薩摩の中村半次 […]
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司馬さん一日一語☞『ハマナス』
ハマナスは 北海道に多い。 また東北から 鳥取県にかけての 日本海岸地方の 海浜に自生する。 バラ科だそうだから、花はバラに似ており、トゲもある。 「バラ科なのに、どこが茄子なんです」 「実が梨の形に似ているからじゃない […]
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司馬さん一日一語☞『パニック』
ギリシア神話のなかの 牧神パンは たえず葦笛を吹き、 美少女とみれば 追いかけ、 気まぐれでもある。 突如怒りだし、羊や牛馬たちを走らせる。 パニックという語の源になった。 1929(昭和四)年のアメリカの株式市場にパニ […]
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司馬さん一日一語☞『花のような』
花のような、 という ことばがある。 人間の美しさを 表現した 日本語としては、 これほどみごとな ことばはないだろう。 森蘭丸は、少年のころから織田信長にその才を愛され、側近に侍しながら、美濃岩村五万石をあたえられてい […]
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司馬さん一日一語☞『八幡』(はちまん)
八幡、 はちまんといい、 やはたという。 いずれも八幡神のこと である。 この神はもっとも早い時代に仏教に習合したから「八幡大菩薩」などともよぶ。 八幡神は十二世紀には清和源氏の氏神になり、その家系の源頼朝が鎌倉幕府をひ […]
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司馬さん一日一語☞『畠』(はたけ)
「畠」という 文字が おもしろい。 漢字ではなく、 国字である。 日本では稲作水田のことを田というが、漢字の本家中国では、田の字は、稲作、麦作、または蔬菜畑を区別しなかった。 ところが、日本の奈良朝はコメをもって基盤とし […]
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司馬さん一日一語☞『芭蕉』(ばしょう)
芭蕉は、 木というより 大型の草という べきだろう。 “日本バナナ (Japanese banana)” などともいわれるらしいが、バナナの実は生らない。 暖地の植物である。 俳人の芭蕉が、伊賀から江戸に出てきたのは、寛 […]
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司馬さん一日一語☞『土師器』(はじき)
弥生式土器の後身は、 茶褐色の祖末な 焼きものである 土師器である。 日本の焼きものは、弥生式時代から古墳時代にかけて併用された土師器(はじき)と須恵器という二種類から、信じがたいほどのことだが、ながく進歩しなかった。 […]
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司馬さん一日一語☞『能力主義』
明治は、 日本人のなかに 能力主義が復活した 時代であった。 能力主義という、この狩猟民族だけに必要な価値判定の基準は、日本人の遠祖が騎馬民族であったかどうかはべつにせよ、農耕主体のながい伝統のなかで眠らされてきた。 途 […]
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司馬さん一日一語☞『合歓の花』
芭蕉は、 この象潟にきて、 合歓(ねむ)の花を 見たらしい。 潟(かた)というのはおそらく紀元前からの古い日本語だろう。 遠浅の海のことである。 くわしくいえば、潮の干満の差がはなはだしく、退潮のときは陸になり、満潮のと […]
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司馬さん一日一語☞『日本人』
こんにち “人類”というのが なお多分に観念で あるように、 江戸体制のなかでは “日本人”であることが そうだったろう。 幕末、勝海舟という人物は、異様な存在だった。 幕臣でありながら、その立場から自分を無重力にするこ […]
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司馬さん一日一語☞『ニシン』
『北海道漁業志稿』 (北水協会編纂) という古い本では ニシンはヌーシィ という アイヌ語からきた、 とある。 もともと和名では カドといったらしい。 手もとの『広辞苑』のカドの項をひらいてみると(東北地方で)ニシンのこ […]
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司馬さん一日一語☞『名乗』(なのり)
維新前、 人の名前にナノリ というものがあった。 広辞苑のその項をひくと、名告・名乗とあって、「公家及び武家の男子が、元服後に通称以外に加えた実名。 通称藤吉郎に対して秀吉と名乗る類」とある。 後藤又兵衛の名乗りは基次で […]
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司馬さん一日一語☞『灘』
普通名詞の 灘の文字は 国字ではなく 漢字である その意味は、つい漢字にひきずられて「潮の流れの速い海」と解されるが、たしかに黒潮の流れる熊野灘などはそれにあたるにしても、摂津の灘をはじめ、日本列島の他の多くの灘のつく海 […]
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司馬さん一日一語☞『名こそ惜しけれ』
恥ずかしいことを するなという精神が、 坂東武者から おこったんです。 日本はキリスト教がなかったし、仏教はより哲学的ですから、あえてキリスト教世界を基準に言いますと、倫理、道徳はなかったに等しい。 それに代わるものとし […]
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司馬さん一日一語☞『どこの馬の骨』
「どこの馬の骨」 ということばは、 日本語のなかでも ユーモアの滋養を たっぷりふくんだ、 数少ない佳い言葉 のなかに 入るのではないか。 「広辞苑」をひくと、—素性のわからぬ人を罵っていう称 とあり、元禄太 […]