司馬さん一日一語☞『蟇目を負わせる』


「いざ、蟇目負わせて
くれん!」

鏑矢の鏃をすげないのを蟇目(ひきめ)といい、鳥獣などを生け捕りにしたり、物の怪を退散させる時に使い、これで射ることを「蟇目を負わせる」(ひきめをおわせる)というのだ。
南朝の興国三年、北朝の康永元年の九月三日、この日は伏見天皇の忌日にあたるので、光厳上皇は伏見院に行き、暗くなってから還幸の途についたが、お車が東洞院を上り、五条のへんを過ぎた頃、馬上来かかったものがある。
上皇の供の者は走り出て、

「何者ぞ、乗りうちは狼藉なり。下馬し候え」
呼ばわった。
土岐頼遠は、羽ぶりのよさに心おごっている上に、あまりの酔いに思考力も鈍っていたのであろう、馬上に手綱をしぼり、
「なにィ?下馬せよじゃと?この頃洛中でわれらに下馬させるほどの者はいないはずじゃ。いかなる馬鹿者がさようなことを言うぞ?大方ばけものであろう。いざ、蟇目負わせてくれん!」
とののじった。

出典:『高師直』より

 

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