司馬さん一日一語☞『老熟』(ろうじゅく)


老熟というのは
他者の立場や事情に
対して理解と優しさを
持つことである。

われわれのエネルギーがつねに武であり、文でなく、多分に倭寇的であったとしても、いずれはその体質なりに老熟したものになるに違いない。
しかし自分の体質が元来そうだと自覚しないかぎり、老熟という好もしい変化は訪れないかもしれず、この体質を老熟させないかぎり、われわれは自滅するかもしれない。
老熟というのは自分のエネルギーが緩やかになるかわり、そのぶんだけ他者の立場や事情に対して理解と優しさを持つことである。
自然に対するいたわりの感情も老熟であるかもしれず、また、この国が加工品を売って成り立っている以上、他民族のおかげで食べさせてもらっているという自覚も、堂々たる老熟の精神といえるかもしれない。

☞出典:『歴史の舞台』(中央公論社)

 

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