司馬さん一日一語☞『由布』(ゆふ)


ゆふ(木棉・由布)は
上代語で、
木の皮から繊維を
とりだした布のこと
をいう。

由布院の由布という言葉の意味には諸説があるようだが、木棉(ゆふ)であると決めこんでも、ほぼ間違いないように思える。
木棉は、今でいうもめんのことではない。
ゆふ(木棉・由布)は上代語で、木の皮から繊維をとりだした布のことをいう。
こうぞなどの木の皮を剥ぎ、その繊維を蒸し、水でさらし、それをこまかく裂いて織った布を、われわれの先祖は着ていた。
もっとも「万葉集」1378に、「木棉懸けて斎(いつ)くこの神社(もり)越えぬべく」とあることなどからみると、ユフという白い布は主として神事に用いられたようでもある。
上代、普通の人間は麻を着、神にユフを捧げていたとすれば、ユフは麻よりさらに時代の古い繊維だったという想像もなりたつ。
ともかくも私はこの由布院という地名が昔から好きであった。
院とは、いうまでもなく、奈良朝のころの官設の倉庫のことである。各地からの田租を「院」におさめておく。
とくに九州に院と付く地名が多いのは、一面、大宰府の統轄力の強さをあらわしているといってもいい。
この「院」のつく土地に集積された田租がやがて大宰府に運ばれ、大宰府から京へ差しのぼらされるのである。

☞出典:『街道を』ゆく』8
熊野・古座街道、種子島みちほか(朝日文庫)

 

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