司馬さん一日一語☞『玉』(ぎょく)


玉というのは、
半透明の美麗な石のこと
で、宝石ほどの透明感はない。

ついでながら、ダイヤモンドをはじめとする宝石を珍重することは
インド文明が先駆をなし、ヨーロッパに影響をあたえた。

これに対し、
玉を珍重することは中国文明における独自のものである。
玉文化は、存外、他地域には影響をあたえなかった。

日本文化への影響は、皆無といっていい。
上代の中国では、玉は金銀よりも上位に位置した。
さらにいえば、紀元前の春秋・戦国のころから士大夫以上の男子に
とって服飾上、不可欠のものであり、需要が多かった。

戦国期には、士大夫は、腰に玉を佩びていた。
項羽と劉邦の時代両雄が鴻門で会したとき、項羽の謀臣范増が、
宴半ばで劉邦を討つ機会(しお)はいまだ、と項羽に目くばせした。そのとき、
范増は合図として、腰の玉を三度上げて示した、ということに
なっている。(『史記』)

それほど玉の需要はさかんだった。

 

☞出典:『街道をゆく』24
奈良散歩(朝日新聞社)

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