司馬さん一日一語☞『山伏』(やまぶし)


山伏は
不動明王を
尊崇する。

不動明王の絵像か彫像を背中の笈におさめて歩き、祈祷をたのまれると、この笈を地上にすえて壇とし、不動明王をかざり、密具をつかってそれをやる。
山伏はおそろしいばかりの験者(げんざ)としてとりあつかわれているのが、「今昔物語」である。
「今昔」が成立した平安後期にはまじめな山伏が多かったのかもしれない。
時代がくだって室町ごろになると、ひとびとは宗教的暗示にかかりにくくなったし、世の中も利口になり、それにつれて山伏も一般に堕落した。
このためもっぱら山伏は狂言などでからかわれるだけの対象になってしまう。山伏は厳密な意味での僧ではない。
密教学の教養が深いわけでもなかったが、しかし簡単な修法を心得、ときに宗教的体質は官僧よりすぐれている者も多く、このため官僧に加持祈祷をたのむことができない庶民たちはそれを山伏にたのんだ。

☞出典:『街道をゆく』4 洛北諸道(朝日新聞社)

 

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