司馬さん一日一語☞『居士』(こじ)


居士(こじ)とは
学徳のある在家の者が、
在家のまま仏道を修して
相当な域に達した場合、
敬してよぶ場合に
つかわれる。

秀吉は信長の政権を武力で継承した。
相続するにあたって
宗易(利休)という茶頭(さどう)をも“相続”した。
信長政権の正当な継承者であるあかしの一つとして、宗易が存在した。
茶について秀吉の企ての奇抜さは
茶という公家にとって新興のものを、こともあろうに宮中にもちこみ、文化としていわば正当性をもたせようとしたことである。
天正十三年(1585)秋、小御所における茶会がそれであった。
「其例ナシ」
といわれた。(「宇野主水日記」)
このとき、正親町天皇に対し、秀吉はみずから茶をたて、宗易が後見した。
この禁中茶会を催すにあたって秀吉は宗易に参内の資格がないため仏道の者ということにした。
仏道のものならば、方外、つまり俗世の位階の外にある。
宗易の場合、入念なことに、あらかじめ勅命によって「利休居士」という名と呼称があたえられた。
居士(こじ)とは学徳のある在家の者が、在家のまま仏道を修して相当な域に達した場合、敬してよぶ場合につかわれる。
居士号も利休とい名もともに勅賜されたことは、破格異例なことであった。

☞出典:︎『以下、無用のことながら』(文藝春秋)

 

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