司馬さん一日一語☞『地女』(じおんな)


遊女に対する
女性一般をさす。

『ひとりね』のなかで、かれ(柳沢淇園)は遊女のことを、
「女郎さま」と、ゆかしげによぶのが、おかしい。
一方、良家の子女をふくめてふつうの女性のことを“地女”(じおんな)とよぶのである。
ひどいことばだが、しかし淇園の造語ではなく、それ以前、
たとえば西鶴の『好色二代男』や『世間胸算用』にも出てくる。

遊女に対する女性一般をさす。
大いそぎで、西鶴や淇園のために釈明しておくが、こんにちでは
“地女”は存在しない。

明治以前は、廓における高位の太夫ほどに教養ある女性は、
世間一般にざらにはいなかった。

すくなくとも『ひとりね』で見るかぎり、大店の全盛の遊女たちの服装の好みのよさ、
身ごなしの洗練ぶりは世間とはかけ離れてあざやかなものだったようである。

※『ひとりね』=柳沢淇園(1704〜58)の随筆
淇園(きえん)は大和郡山柳沢家家老柳沢権太夫の儒者としての名、名乗りは里恭(さととも)。柳理恭(りゅうりきょう)という名では、画家として知られる。

 

☞出典:『司馬遼太郎全舞台』(中央公論新社)


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