司馬さん一日一語☞『世間虚仮』


七世紀の聖徳太子が
大好きなことばだった。

世間(せけん)というのは現象世界のことで、こんにちでいう、世界の意味です。
世界は虚仮(こけ)、仮のものである、というのは、七世紀の当時だからこそ—その程度の生産能力しかもたなかった古代だったればこそ—すばらしいことばだったでしょう。
「世間虚仮」(せけんこけ)というのは、対句のようにして、
「唯仏是真」とつづきます。
“唯仏是真”の場合の仏とは、宇宙・万有の大原理という物です。
宇宙の原理だけが真実なんだよ、というのです。
そういわれても二十一世紀いまの“世間”では寝言のようにしかひびきません。
—しかしながら、と、仏教ふうの二律背反で申しますと、
「世間虚仮、唯仏是真」
というのは、宇宙は生命そのものだ(大我である)、だからこの大我の原理でもって世の中をよくしたい、ともとれるのです。
そうなれば、われわれ個々も、いまの文明も元気づきます。
聖徳太子がもしこんにち生きていらっしゃれば、ご自分のことばをそのように解釈して世界に臨まれるでしょう。

☞「心と形」より

 

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