司馬さん一日一語☞『上人』(しょうにん)


葬式をするお坊さん
というのは
非僧非俗の人、
お上人でした。

いまは、日本語が紊乱しまして、上人(しょうにん)と言うと、
偉い人のようにきこえますが、
上人というのは資格を持たない僧への敬称であって、たとえば
空海上人とは言いませんし、
最澄上人とも言いません。

最澄も空海も有資格者だからで、無資格者に対してはたとえば親鸞上人というふうに敬称します。
ただ親鸞の場合は、ときに聖人と書きます。
聖(ひじり)というのは乞食坊主のことです。

聖と賎は紙の表裏だとよく言いますが、聖というのは、普通、中世の言葉では、正規の僧の資格を持たない、乞食坊主のことを言いました。

私は、東京で普通の町寺のお坊さんを中世の言葉、お上人様と呼んでいる例を知って、びっくりしたことがあります。

これはどういうことかといいますと、日本の仏教は正規のお坊さんが、葬式の主役であったことは本来ないんです。
だいたい、仏教に、葬式というものはありません。
奈良朝におこった宗旨はいまでもお葬式をしません。
もう少し歴史的な景色を申し上げますと、室町時代ぐらいまで、戒を受けた立派な僧侶は、そういうこと(葬式のお経をあげる)はしませんでした。
葬式をするお坊さんというのは、非僧非俗の人、お上人でした。

☞出典:『以下、無用のことながら』(文藝春秋)

 

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