司馬さん一日一語☞『スマート』


私は海軍のことを
知らないが、
その精神教育は—-
海軍士官は
スマートであれ。

という一点に尽きるらしい。
とくに速成教育で士官になるひとびとはこのひとことに感動し、生涯海軍びいきになってしまうという。
スマートというのは、辞書をひくと、第一の意味は傷口などが痛んでズキズキしたり、貼り膏薬などが皮膚にひりひりしたりすることだという。
また神経痛などで体の一部が刺すように痛む場合にもつかわれる。

転じて、反省して恥じるという意味もある。
大いに転じて、私どもが渡来語としてつかう、たとえば“あの人の風采や行動はじつにスマートだ”という意味になる、気のきいた、才気ある、機敏な、てきぱきした、しゃれてかっこいい、という感じを総和したようなことばである。
軍医学校の卒業式で、質問する者がいた。
スマートとはどういう意味でしょうときくと、
「たとえば、酒を飲むなら一流の料理屋で飲めということだ」

米内光政という人はそういうこともふくめてスマートな人だった。
国家が、破滅しかけているという危険予知の感覚は、このスマートさからも出ていたらしい。

 

☞出典:『街道をゆく』29
秋田散歩、飛騨紀行(朝日文庫)

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