司馬さん一日一語☞『カタリベ』


カタリベとは
魚類でも植物でもない
ヒトである

上古、文字のなかったころ、諸国の豪族に奉仕して、
氏族の旧辞伝説を物語ったあの記憶技師のことだ。

語部という。
当時無数にいたであろうかれら古代的な技術者のなかで、
『古事記』を口述した稗田阿礼の名だけがこんにちに残っている。
漢字の輸入がかれらの職業を没落させた。
トーキーの出現で、
活動写真弁士がその職場を追われたようなものだろう。
しかし、儀式用にはながくその存在はのこっていたらしい。
西紀九百二十年ごろに成立した『延喜式』の践祚大嘗祭の条(くだり)に「伴宿禰、佐伯宿禰、おのおの語部十五人をひきい、東西の掖門より入りて、位に就き、古祠を奏す」とある、
すでに実用性は失っていた。
しかしアイヌの社会でユーカラを語る老人のように、儀礼的価値
として、平安初期にはまだ生きのこっていたことになる。

☞出典:『歴史の中の日本』(中央公論社)

 

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