司馬さん一日一語☞『です』


「です」という
軽い敬語も、
明治の
小学校教科書から
はじまったかと
私は思う。

それまで「です」という言葉はなかった。
敬語としては、ふつう、江戸も京・大坂も「でござります」であった。
軽い場合は、江戸では「でござんす」、大坂では「でごわす」だった。
英語でいえば、isですむこの動詞が、こうも長ったらしくては、明晰を要求される近代語として不都合だった。
そこで、文部省が「です」という言葉を造語したかと思える。
「です」が教育の現場にひろまるころも、苦情が殺到したという。下品だという。
「タイコモチの言葉じゃないか」
というむきもあった。
たしかにタイコモチは「でげす」という言葉をつかっていたが、それと「です」とが同根とは私には思いにくい。
ともかくも「です」の登場によって、日本語のセンテンスのシッポがずいぶんみじかくなって、言語としての切れもよくなった。
※一説によりますと、江戸の末期の芸者さんが「そうです」と言っていたそうです。

☞出典:『十六の話』(中央公論社︎)

 

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