司馬さん一日一語☞『お目こぼし』


おめこぼし
ということばが、
関八州では
よく使われた。


いわゆる関八州の大部分が天領で、
農民の身分生活を
締めつける治安機能はまことにゆるやかであった。
この関東という広大な地を、

江戸に役所をもつ関東御代官という職分の者が遠目でもって
ゆるやかに治安を見ているだけだったのである。

べつの話になるが、関東が博徒や無宿者の巣窟のようになっていた
のは、このように監督の網の目の粗さによるものであった。

「おめこぼし」ということばが、関八州ではよく使われた。
八州様(関東御代官の下役/八州取締出役)を接待したりする
土地の偵吏や名主たちが、御仁政のために、小さなことは
お目こぼししてもらうように持ってゆくのである。

三多摩地方の農村における剣術の流行も、上州あたりの博徒の存在
をお目こぼしされるのとほぼ似たような
事情として考えていい。
ともかくも鵜の目鷹の目で庶民をこまかく監視している諸国の
大名領では考えられないことであった。

☞出典:『︎ある運命について』(中央公論社)

 

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