司馬さん一日一語☞『韃靼』(だったん)

民族名であり、
地域名でもあったが、
しかし
いまはこんな名称は
現実には存在しない。

韃靼(だったん)の韃は、明の辞書である「字彙」によると、撻(たつ/むちうつ)からきている。
馬をむちうって駆けるというイメージからつくられた漢字である。この漢字は、「唐書」の「沙陀伝」にはじめて出てくる。
モンゴル帝国の元がほろび、明が興る。
「明史」の「韃靼伝」では、「韃靼、即チ蒙古、故元ノ後也」とある。漢民族がモンゴル人をそのようによんだのである。
呼称のおこりは八世紀から十三世紀はじめにいたモンゴルの一部族タタールのことであったらしい。
やがてモンゴル人全体をさすようになった。
要するに、モンゴル高原のオルホン川流域で遊牧していたタタール族の名が北アジアの遊牧民ぜんたいの呼称になったのである。
さらにひろがって、十三世紀のチンギス・ハーンの民族そのもの、世界史のブロード・ウェイを往来したひとびとをさすようになった。

☞出典:︎『韃靼疾風録 下巻』(中公文庫)

 

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