司馬さん一日一語☞『醜男』(しこお) 

醜は、古語である。
にくにくしいまでに
強いこと、あるいは
そういう人をさす。

『古事記』を真にうけるとすれば、その始祖は健速(たけはや/勇猛で敏捷)なスサノオ命(須佐之男命)である。
その首都は、出雲の須賀にあった。
その子が大国主命(おおくにぬしのみこと)というふうになっている。

名が他に四つあったという。
大穴遅命(おおなぢのみこと)ともいい、またの名を葦原色許男(あしはらしこお)ともいう。
色許男は醜男(しこお)ともいい、この醜はミニクイというより、強悍という意味である。

“醜の御盾”(しこのみたて)も強い近衛兵ということであり、ともかく、醜というのは、わるいことばではない。
大国主命の別名が葦原の醜男というのは、かれのつよさをあらわす。

又の名を八千矛神(やちほこのかみ)ともいう。
これはたくさんの矛をもっている人ということだから、兵力も相当なものだったのにちがいない。

さらに又の名を宇都志国玉神(うつしくにだまのかみ)という。
宇都志というのは現世(うつしよ)の現実で、宇都志国は冥界ではなくこの世のことである。
国玉はイキモノとしての国を代表するタマシヒのことで、
国王と考えていい。
『古事記』によるとこの醜男は最初から国王ではなかった。

☞出典:『街道をゆく』27
因幡・伯耆のみち、檮原街道(朝日文庫)

 

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