司馬さん一日一語☞『菱垣船』(ひがきせん)

盛りあげた荷が海に
こぼれ落ちないように
両舷に垣を
たてるのである。
だから、菱垣船とか
菱垣廻船とかいう。

からだに不釣り合いなほどにばかでかい帆をあげ、木ノ葉を縦に折ったようなV字形断面の船体には甲板(床)というものがなく、荷物は茶碗に物を盛るように船ぞこからじかに積みあげる。
積みあげてついに舷側(ふなばた)を越すほどの大盛りにする。
盛りあげた荷が海にこぼれ落ちないように両舷に垣をたてるのである。だから、菱垣船とか菱垣廻船(ひがきかいせん)とかいう。
菱形の目の垣をむすんでゆくからである。
盛りあげた荷の上には、わら屋根のように苫をかぶせて波や雨から荷をまもる。
威勢ということからみればまことに歯切れがよくない感じがする。

江戸期は商品経済の時代である。
家康、秀忠が思いもよらなかったことに、商品生産が活況を呈し、やがて日本中にひろがって、蝦夷地の鰊が近畿の棉畑の肥料荷也、薩摩の砂糖が全日本にひろがり、いまの阪神間の酒が年に七十万樽以上も江戸にはこばれ、京・大坂の古着がいまの岩手県である南部藩の藩士の夫人たちの晴着になり、秋田の米が滝をつくるようにして大坂の米市場に運ばれた。
この経済社会をささえたのは、日本海や太平洋を往来する大型和船であった。
大坂・江戸間をふつう二十日ほどもかけて地乗りでゆくのだが、風の都合のいいときには、四、五日で行ってしまう船も出てきた。

☞出典:『歴史の世界から』(中央公論社)

 

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