司馬さん一日一語☞『万里の長城』

紀元前、
異民族の侵入をふせぐ
ためにつくられた

(万里の)長城は、歴世、修理と増築をかさねて、胡をふせぐための機能をよく果たした。
塞外の騎馬民族にとって、この長い壁があるために馬を越えさせることができなかったのである。
長城は明朝において大完成した。
この王朝はいわゆる北虜南倭という外からのわざわいがあり、財政が涸れてしまうほどになやまされていた。
北虜に対しては長城に工事をほどこしいよいよ強固に防御した。
それほどりっぱな長城をもちつつ、明はその末期、満州に勃興した異民族(女真族・清朝)の大軍の侵入をゆるしてしまった。
もっとも清軍といえども長城は越えられなかった。
当時、長城の関門である山海関を内側からまもっていたのは、明軍の主力部隊である呉三桂の軍であった。
かれは清から王の位をもらう約束で、山海関の扉を内側からあけてしまい、清軍の奔入をゆるした。
長城は、内部の人間の異心のために無用のものになったのである。

☞出典:『ある運命について』(中央公論社)

 

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