司馬さん一日一語☞『普請』(ふしん)

日本は、
普請の国である。
普請は、
土木のことをいう。

ことばとしては十三世紀ごろに浙江省あたりから入った宋の音で、当初は建築ということもふくめてつかっていた。
戦国時代になると、建築をきりはなして、これを「作事」とよぶようになった。
城ならば、その土台のいっさいをつくる土木は、普請奉行がやる。
その上にのせる楼閣などの建造物をつくるしごとは、作事奉行のうけもちである。
農業土木という言葉は、それよりも古くは、「治・墾(はり)」といっていたのではあるまいか。
さらに古代にさかのぼると、そういう概念語すらなかった。
ただ作業だけがあった。
日本の稲作は、弥生時代から、軽度・重度の農業土木がかならずともなうのである。
私どもは、いちいちの小さな農民のレベルにおいて、石を積み、溝をひき、井堰をつくり、土塁を版築するというこまごまとした土木を営んできたひとびとの末裔なのである。

☞出典:『以下、無用のことながら』(文藝春秋)

 

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