司馬さん一日一語☞『数寄』(すうき)

「好・数寄・数奇」
という、室町文化を
特徴づけることばは、
愉悦であるとともに、
毒として理解されて
いた。

昂ずれば城をほろぼし、商いに身が入らず、身上をつぶすという危険と表裏をなしているからこそ、
数寄をつらぬいた人がいっそうに珍重されたのである。

江戸時代になって「道楽」ということばに変わった。
ずいぶん語感がげびてしまったのは、江戸期の庶民道徳がそれほど数寄に対してきびしかったからにちがいない。

☞出典:『十六の話』(中央公論社)

一人前の知性にして、しかも“好き”ということがあります。
“すき”には自由という意味がありますね。
自分の思うままに、好き勝手にします、ということで、これは世間の制約やとり決めを排除したり、否定したりすることですね、
ということは、やはり“好き”というのは非常にきわどい言葉なんですね、お茶の数寄も。

“あはれ”(ほのかで、これいいな、という気持ちがそこに移るときにいう)の程度で済ませていけば、無事安泰に世は送れるけれども、さらに踏み込んで“好き”になるということは、破滅への危機をかかえこむことでもある。
中世ではこの精神にわざわざ“数奇・数寄”というえたいの知れぬ文字をあて、“身をほろぼすのも覚悟した精神の傾斜”ということで、賛美しました。
室町のころの数寄は、商人ならば身代をうしない、武士ならば領地をうしなうことを覚悟したものなのです。

☞出典:林屋辰三郎対談「世界のなかの日本文化」より

 

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