司馬さん一日一語☞『主水』(もんど)

主水というのは、
古語である。
奈良・平安朝の
ころの役職名で、
語源はモヒトリだ
という。

徳川家康が江戸に入ったのは天正十八年(1590)。
その草創の最大の事業のひとつが、上水道を設けたことである。
その設計と施工を家臣大久保藤五郎忠行に命じた。
藤五郎がそれを成功させたので、家康ほうびとして、「主水」(もんど)という名をあたえた。
主水というのは、古語である。
奈良・平安朝のころの役職名で、語源はモヒトリだという。
『岩波古語辞典』の「もひ」の項をひくと、「水を盛る器」とあり、転じて飲み水のことをいうようになった。
モヒトリとは、貴人のための飲料水を管理する役人をさし、やがてモヒトリがモンドとなった。
家康はさらにいった。
「もんどでは水が濁るようでよろしくない。
もんとと澄んで訓め」家康の上水道の成功にかけた期待の大きさが窺える。

藤五郎の時代は、その後の江戸水道の特徴である給水装置—木樋や石樋を埋めこんで四方に水を送る構造—は用いられておらず、露天流水だったようである。

☞出典:『街道をゆく』37
本郷界隈(朝日文庫)

 

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