司馬さん一日一語☞『上総守』

信長についていえば、
一時期「上総守」を
称しましたが、
こういう「守」は
ないのです。

信長についていえば、若いころのかれは京都文化などほとんど知りませんでした。
この時代、かれのような出来星(できぼし)の田舎の小大名は、たいてい官位を私称します。
一時期「上総守」(かずさのかみ)を称しましたが、こういう「守」(かみ)はないのです。
遠いむかしの平安期、上総や上野(こうずけ)は親王領でしたから、親王が京にいたまま「守」になりました。
現地には次官の「介」(すけ)がゆきます。
両国にかぎって、上総介・上野介が他国の「守」と同格です。
信長はたれにいわれたのか、ほどなく織田上総介と称するようにはなりましたが、それほど中央文化にうとかったのです。
信長の家は、地方豪族のさらに鄙なるものでした。
やがてかれは平氏を公称します。
兄弟分に当る三河の家康は藤原氏を称していたんですけれども、源氏を称するようになりました。
この二人は日本人の姓氏や家系のいいかげんさの象徴のようなものですね。

☞出典:『歴史と風土』(文春文庫)

 

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