司馬さん一日一語☞『越前和紙』

越前における
奉書、鳥子は、
江戸時代にすでに
評価が確立していて、
越前の重要な産物で
あった。


越前今立で漉かれてきた和紙は、

懐紙や往来物につかう安っぽい紙ではなく、奉書である。
元来は、平安期の院宣、室町将軍の御教書(みきょうしょ)や
戦国大名の下知状といったおもおもしい内容を書きしるすために
用いられた。
江戸期では、寺社の行事、庶民の婚礼などごくふつうの、しかし
多少あらたまった行事にはこれが用いられた。

障子紙や行灯にはる紙も、これに類したものであった。
ともかくも、しわがなく、純白で、きめのうつくしいのが、
越前奉書紙である。
一方、鳥子紙は、紙の王といわれたりした。
私はこの紙が鳥のひなの羽色に似ているからそういう名称が
ついたと思っていたが、

寿岳文章博士によると、鳥の子とは鶏卵のことであるという。
紙の色は、鶏卵の殻の色—クリーム色—を帯びている。
この鳥子紙についても、室町時代以降、越前のものが第一等と
いわれつづけた。

越前が、これら上質紙の製紙に卓越していたのは、
ひとつには小国であるわりには
歴史的に大小の寺院が多く、

紙の需要がさかんなうえに、
品質管理もうるさかったからであろう。

☞出典:『街道をゆく』18
越前の諸道(朝日文庫)

 

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