司馬さん一日一語☞『義務』(ぎむ)

義務ということばは
新語でありながら、
明治のひとびとに
愛用され、
頻用されたことは
たしかです。

坪内逍遥の『当世書生気質』にも出てきますし、
夏目漱石の『吾輩は猫である』にも出てきます。
主として書生や知識人のあいだでつかわれたかと思います。

ただし、ネルソンがつかったようなたっぷりと栄養分をふくんだ
新鮮な果実のような感覚でつかわれたようには、
残念ながら思えません。
「納税の義務、兵役の義務、教育の義務」(国民の三大義務)といったふうに、
国家からの拘束性の強いことばとしても多用されました。

資本主義がはじまる前に、その前ぶれ時代に、英国ではすでに、
それを支える倫理の結節点として義務という倫理をうみました。

私どもの日本社会は、武士道を土台にしてその“義務”を育てたつもりでいました。
しかし日本の近代史はかならずしもそれが十分であったとはとても思えません。

人間も企業もつねに得体が知れなければならない。
それは、新鮮な果汁のように
たっぷりした義務という倫理を
もっていることであります。

※私は、英国にくると、十七世紀から十八世紀までの歴史が、
dutyという倫理を中心に旋回したのではないかとおもうものです。

 

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