司馬さん一日一語☞『昆布』

日本人が
食用にしてきた
あらゆる「め」のなかで
昆布が最も食生活に
かかわりがふかい。

日本人は、古代から、海藻を食ってきた。
食用海藻のことを「め」といった
(わかめ、あらめ、みるめ、などの言葉をおもいだせばいい)。

日本人が食用にしてきたあらゆる「め」のなかで、昆布が最も食生活にかかわりがふかい。
そのくせ、昆布ということばには、本来の日本語である「め」が
ついていない。

昆布のことを「ひろめ(広布)」とよんだこともあるというが、
頻度は高くなかった。

『続日本紀』(797年に成立)の霊亀元年(715)の記述に、蝦夷の須賀君古麻比留らがやってきて、昆布を献上した、とある。
「先祖以来来貢献昆布」というから、霊亀元年以前から献じてきた
ものにちがいない。

そのことはともかく「昆布」ということばが、すでに797年成立の本につかわれていたことをみると、日本語としてもふるい。
昆布は漢語でなさそうに思えるから、あるいは蝦夷語(蝦夷はかならずしもその後のアイヌではない)だったのではないか。

鰊は、ふるい和語で「カド」といった。いまでは、カドということばは、
ニシンの子を「カヅ(カド)ノコ」とよぶ場合にのみ生きている。

出典:『菜の花の沖』四(文芸春秋)

 

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