司馬さん一日一語☞『巫女』(みこ)

巫女、
これはつねに
野(や)にあって
独行した。

仏教は奈良朝のころに形をととのえるのだが、固有の信仰は巌の下の木賊かなにかのように、地下茎をはびこらせつつ生き残った。
巫女、これはつねに野(や)にあって独行した。
多くの巫女たちは旅をつづけたから、歩き巫女などともいわれた。
巫女は、みずから神がかったり、他者に神を憑かせたりする。
彼女たちは一般社会から怖れられることがあっても、「決して親しまれたり、愛されたりしてはいなかった」(中山太郎著「日本巫女史」)。
つまり怪性に近い存在。
ときにわざわいをなすかもしれない超能力者。
あるいはこれとうかつに睦んだりすれば、病毒を感染されるおそれのある者。
この巫女こそ、古アジアのシャーマニズムと同根のものであり、日本におけるその末裔だったといっていい。

☞出典「湖と高原の運命/雑談として」より)

古代の氏族社会においてその氏族の氏族神に仕えていて、「魏志倭人伝」でいうところの「鬼道」をおこなう巫者のことである。
古代日本では氏族神の血筋をひく婦人がその役割をする。
本土では上代のいつのころからか絶えた。
ただ天皇家の氏族神として伊勢神宮にかぎり、崇神帝から後醍醐帝のときまで、未婚の内親王もしくは女王が、斎宮としてその祖神に仕えた。
中国風にいう鬼道—-神霊や霊魂との交通—をおこなったのである。
巫女は中世以後堕落して、遊女になったり、歩き巫女になって梓の杖をもちながら諸国を遊行(ゆうぎょう)したり、ついにはいまでは東北の恐山でわずかな金をとっては口寄せ(死霊の)をするイタコになってたりする。

☞『街道をゆく』1
甲州街道、長州路ほか(朝日文庫)

 

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