司馬さん一日一語☞『山見』(やまみ)

古代から幕末までの
日本の航海術は、
「山見」(山見)と
いわれる方法だった。

陸の景色(山々の姿)を見ながら船の位置を知って航海する沿岸航法だったのである。
明治以前の船乗りにとって、「山」というものの第一は、岬のことだった。
山脈が海中に突出しているかたちをみさきというのだが、日本の古い船乗りたちは、この絶対の目印、さらにはその根の入江で船を入れることもできる地形を神々だとおもっていた。
単に先というべきことばにみという接頭語をつけてよんだのは、農民ではない。
農民には、岬は必要ではなく、助けにもならなかった。
岬以上の存在が、特異な形態をした独立峰だった。
たとえば、讃岐の琴平にある象頭山は、山容は像の頭に似て海上からきわだった目じるしになってきた。
瀬戸内海をゆく舟人はこの山をみて自分の位置を知り、ついには霊験を感ずるようになった。
海上の神である金比羅大権現(金刀比羅宮)が、いつ象頭山の中腹にまつられたのかはよくわからないが、重要なことは「山見」をする海上のひとびとにとって神にひとしい山だったということである。

☞出典:『街道をゆく』27
因幡・伯耆のみち、檮原街道(朝日文庫)

 

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