司馬さん一日一語☞『尊王攘夷』

あるいは
尊王賤覇とも
いうのです。

朱子学の道はまた別な要素、尊王攘夷がやかましくいわれる。あるいは尊王賤覇ともいうのです。
尊王攘夷の夷はあくまでも異民族という意味で、これは中国で起こった宗学の家庭の事情によるものです。
当時北中国は金という異民族に征服されており、漢民族の王室は揚子江以南に引き下がった時代で、そこに宗学が成立する。
そのときの漢民族の学者たちは異民族を呪い、漢民族こそが正しいといい、王というものには系統があるのだとか、曖昧な王は排除すべきだとかいった。
これは正閏論(せいじゅんろん)で、宗にとっては空論でなくても、他の国の風土にとっては一種の空論にすぎない。
しかし大文明国の中国から来た思想ですから、江戸初期には、朱子学は空論だとは思われない。
そこで家康が採用するわけですが、それは林大学頭が朱子学だったという何でもない理由からです。

☞出典:『司馬遼太郎が考えたこと』9 (新潮社)

 

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