司馬さん一日一語☞『大納言』(だいなごん)

大納言というのは、
大宝律令でできた
官職で
大臣のつぎの職である。

大臣が参内しないときは、それに代理して諸政をみた。
比較はできないが、比喩としていえばいまの事務次官にあたるであろう。
千二百年前の日本の官人、知識層はすでに漢字がよめたからこれをダイナゴンとよんだ。
むろんこの官名には和称もある。
「オホイモノマヲスツカサ」といった。
何某がそれに就任した。
人がお祝いにゆく。

「オホイモノマヲスツカサに御昇任なされておめでとうございます」といわねばならない。
息が切れ、途中で息をいれていったであろう。

日本語と蒙古語は、おなじウラル・アルタイ語族に属し、膠着語という種類の言葉である。

膠(にわか)でくっつける。
膠はテニヲハのことだ。

蒙古語では鉛筆のことを直訳してナマリノフデ(ホルゴルジン・ビール)という。
ながったらしいことばで、喋っているうちにくたびれてしまう。
日本では漢語をもって固有の日本語を鍛錬してきたので、このあたらしい文物が入ってきたとき、「石筆」といった。
意味もわかり、発音も簡潔である。ついで鉛筆ということばにかわった。
黒鉛を使っている以上、石というばくぜんとした文字をつかうより、より正確に本質をあらわしているであろう。

☞出典:『歴史と小説』(河出書房新社)

 

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