司馬さん一日一語☞『夜郎自大』

「夜郎自大」
という言葉が、
『史記』の
「西南夷伝」にある。

昭和の陸軍には、明治の陸軍に濃厚に存在した現実を計算する能力は、なかった。
兵にも国民にも精神主義を強い、「世界一の陸軍」であるかのように、みずからも錯覚した。
その実、昭和陸軍の装備は日露戦争当時とさほど変わらなかった。
輸送には主として馬を用い、兵員の移動は、ふつう徒歩だった。
他の国のように自動貨車や無限気動車(キャタピラー)によって歩兵が機動することがなかった

「夜郎自大」という言葉が、『史記』の「西南夷伝」にある。

夜郎の国は、滇池(中国雲南省)という大きな湖を抱いていて、その恵みをゆたかに受けている。
二千年前に稲作が発達し、青銅器文化ももっていた。
気候は温暖で、年中半裸でくらしていても支障はなかった。
他との往来もすくなかった。
その地の長が、漢の使者に、「どうだ、夜郎は大きいだろう。あなたの国とどちらが大きいかね」といったというが、昭和の陸軍とかわらない。

☞出典:『街道をゆく』42
三浦半島記(朝日文庫)

 

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