司馬さん一日一語☞『名こそ惜しけれ』

恥ずかしいことを
するなという精神が、
坂東武者から
おこったんです。

日本はキリスト教がなかったし、仏教はより哲学的ですから、あえてキリスト教世界を基準に言いますと、倫理、道徳はなかったに等しい。
それに代わるものとして、恥ずかしいことをするなという精神が、坂東武者からおこったんです。
当時から、「名こそ惜しけれ」というのがモラルの中心になりました。
この「名」というのは名声欲の「名」ではなく、恥ずかしいことをしたら「あいつが」と言われる、その名です。
変なことをしたら「名こそ惜しけれ」。
倫理、道徳をヨーロッパ的にたたき込まれなくても、われわれ日本人がこの社会で、なんとか大間違いをせずに来られたのは、関東からひろまって江戸末期あるいは明治以後までつづいた「名こそ惜しけれ」によってです。
恥の文化と言ってしまうと身も蓋もありませんが、これは関東の鎌倉幕府成立のときに、湧く雲のようにおこった関東土着のモラルが全国を風靡した、しかもいまに影響しているということだと思います。

☞出典:『司馬遼太郎全講演』第2巻(朝日新聞社)︎

 

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