司馬さん一日一語☞『信長』

この人物は、
不条理や不可知なる
ものを並はずれて
憎悪した。


信長という人物が日本歴史に果たした役割は、なんといっても中世の体系と中世的な迷妄を打破して歴史を近世に導いたところにあったろう。

この人物は、不条理や不可知なるものを並はずれて憎悪した。
信長は叡山に灰燼を残しただけで急死したが、かれの憎悪はなお不徹底の部分があった。
野鳥草木のたぐいまで駆逐することはしなかったからである。
信長の事業を数百年を経てみごとに引きついだのは、昭和三十年代の日本の支配的資本のひとつ、“観光資本”であったかもしれない。
この資本は、その性質上、信長よりもさらに徹底した合理主義を生理条件としているらしく、崖を切り、土を奪い、草木を剿滅(そうめつ)し、飛鳥走獣のたぐいまでを駆逐(おいはら)った。

☞出典:「梟のいる都城」のあらすじに代えて(中外日報)

 

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