司馬さん一日一語☞『ハマナス』

ハマナスは
北海道に多い。
また東北から
鳥取県にかけての
日本海岸地方の
海浜に自生する。

バラ科だそうだから、花はバラに似ており、トゲもある。
「バラ科なのに、どこが茄子なんです」
「実が梨の形に似ているからじゃないですか」
「すると浜梨」
「東北の人が発音すると、浜ナス。いや、ホントです」
梨に似た実も役に立つ。
むかしから食用にされてきたそうである。
花も、それを乾燥させて煎じると、下痢どめの薬になる。
根は染料になるらしい。
ハマナスというこのささやかな植物は、列記した有用性以上に人間に貢献してきた。
さきに、砂丘を森にする場合、砂どめのために、グミとハマナスが用いられると書いた。
むろん、森として育ってしまえば、ハマナスのような下草は役目を終えるが、その種子がはるか後世にまでうけつがれて、いま私どもの足もとで花をつけているということであるらしい。

 

︎☞出典:『街道をゆく』29
秋田県散歩(朝日文庫)

 

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